「歴史が好き」は仕事に結びつかないのか?史学科OBが就活・職業について考えてみた

歴史

こんにちは。フリーライターの齊藤颯人(@tojin_0115)です。

私は上智大学の文学部史学科を卒業し、現在は歴史系を専門とする「歴史フリーライター」として活動しています。

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プロフィールをご覧いただきありがとうございます。サイト運営者の歴史ライター・齊藤颯人(とーじん、というペンネームでも活動中)と申します。 このページでは、私の活動分野や過去の実績、執筆の単価感などをまとめています。 1. 簡...

このように、今でこそ歴史を活かした仕事ができていますが、大学在学当時は大学で歴史学を専攻している人間は必ず思い当たるであろう「あれ?歴史勉強しても仕事にならなくない?」という問題に直面しました。

確かに、ごく限られた就職先として歴史を生かした仕事は存在します。しかし、それらへの就職は狭き門でもある、これもまた事実。

そこで、この記事では「歴史が好き」は本当に仕事にもお金にもならないのかを検証してみたいと思います。

史学科で就職先を考えている下級生や、史学科への進学を考えている学生・親御さんにはぜひ読んでいただきたい記事です。

1.歴史を使える仕事や職業

さて、まずこの議題を検討する前段階として、そもそも「歴史好き」が生かせる仕事を挙げていかなければなりません。

その「歴史好き/得意」を生かせる仕事には、大きく分けて2パターンあると考えています。

1.歴史学への造詣が求められる仕事

まず大半の歴史学専攻者が思い描くのはこうした仕事でしょう。

ここでは、最低限大学で歴史学を専攻し、さらには大学院で修士・博士課程を経て就職するような仕事のことを指します。

該当するものとしては、普段授業を受けている大学や大学院の教授・各種史料室の職員・学芸員・歴史専門書の出版社職員・高校の歴史科教員などになるでしょう。

こうした仕事は、歴史学に精通しており、鋭い問題意識をもち、良く学び経済的にも比較的豊かな学生に運が味方すれば就職できると思います。

仮に就職できれば高い専門性のある仕事ができますし、社会ステータスも担保されています。

2.「歴史好き」が求められる仕事

こちらは、むしろ歴史学を学んでいない人が思い浮かべる仕事かもしれません。

「歴史が好き・得意」であることを最低条件とし、必ずしも歴史学に精通していなくても仕事になるケースも意外とあります。

該当する職業は、例えば

  • 歴史小説家
  • 歴史イラストレーター
  • 歴史タレント

などでしょう。

史学科の学生は時々忘れがちになってしまうかもしれませんが、世の中にはライトな歴史ファンがたくさんいます。

そのため、例えば私がやっているライター業も意外と歴史系の需要があるんです。ライトな歴史ファンに情報や価値を届ける仕事もあると覚えておいてください。

2.史学科でも一般就職に支障は感じない

ここまで2パターンの仕事について書いてきましたが、先ほども少し触れたように「歴史学への造詣が求められる仕事」に就くのは至難の業です。

世の中には史学専攻の学生だけでも膨大な数が存在し、職業としてそれを生かそうと真剣に歴史学と向き合っている学生も少なくありません。

しかし、そういった学生数に対して仕事の数はあまりにも少ないという事実があります。

上記で挙げた要素はあくまで必須のものであり、それを揃えていてかつ「運またはコネ」の存在が欠かせないのです。

加えて、ノーリスクで挑戦できるならばまだよいのですが、そういった職業に就くことができず挫折した場合、8割がた人生が詰みます。

こういった現状があるため、「歴史学を突き詰めて食べていくのは、売れっ子アーティストになることとほぼ同じ難易度」と考えていいと思います。

個人的にはそういう人はすごく好きですし、私も将来的には大学院へ進学してみたいと思っているのですが、リスクを負いたくない人には絶対にお勧めできません。

ただし、「史学科は就職で苦労する!」という風潮があるものの、周りの同級生を見ていると一般就職の道を選べば文系の他学部との差はそれほど感じませんでした。実際、史学科を卒業した私の妻は歴史と全く関係ない大手企業に勤めています。

もちろん、史学科が特段就職に有利ということはないものの、「史学科であること」が足を引っ張っていた感じはありません。

3.歴史好きであればできる仕事と史学専攻ならではの悩み

ここまで、歴史学を突き詰めて仕事にするのがどれほど困難か、という話をしてきました。

すると、現実的な選択肢としては必然的に「ライトな歴史ファン」を相手にする仕事になってくるのではないかと思います。

私の場合ですが実際にそういったファン向けの記事を書いて収入を得ていますし、これはかなり現実的な選択肢になるでしょう。

仕事としても、選考に近しい分野をやっているのでより詳しい記事が書けますし、書いていて楽しく仕事ができているという実感があります。

しかし、史学専攻の学生がそうした仕事をしていくにあたって、史学専攻ならではの悩みをいくつか抱えることになるのではないかと思います。

ここでは、あえてそうした悩みをみていきましょう。

1.「多くの人に需要がある分野」以外は書きづらい

これが多分一番大きな悩みになるのではないかと思いますが、歴史学の道から外れた仕事では「多くの人に需要がある分野」以外はなかなか仕事につながりづらいです。

具体的には、日本史であれば戦国・幕末、東洋史であれば三国志といったイメージです。

正直、歴史学の対象となる範囲としてはごく狭いですし、必ずしも学問的に重要ではない分野であることもあります。

例えば、私の場合専攻は日本史で、時代区分としては日本近現代史です。さらに突き詰めてくと、日本近現代スポーツ史の日本近現代野球史が本当の専門分野です。

しかし、恐らく私の専門分野について詳しく書いても全くお金にはならないでしょう。

このように、少しマイナーな分野になってしまうと途端に仕事にならなくなります。そのため、マイナーな分野をどうしても仕事にしたければ、歴史学を突き詰めてるしかないでしょう。

ただし、どうしてもマイナージャンルの情報を発信したければ、そこは趣味の領域にしてもOK。仕事と割り切って人気ジャンルの仕事をしてもいいと思います。

一般企業に入れば歴史とは縁もゆかりもないことをやらされるわけですから、それよりはずっとマシでしょう。

2.「史実」と「面白いネタ」のジレンマ

史学専攻の方はよくわかっていると思いますが、歴史学を突き詰めていくとつまらない結論に落ち着くことが多いです。

そもそも歴史学は「疑い」の学問なので、基本的に「面白いウソ」「つまらない現実」に変えていくものでもあります。

日本史を例に出すと、江戸時代に記述された軍記物に書いてあることはだいたい史実ではありません。

しかし、江戸時代に軍記物が流行したことで、あたかもその事象が史実であるかのように定説となってしまっているものがいくつもあります。

歴史学の領域では、そうした定説に対して史料に基づいて矛盾を指摘していくというのが基本的な作法になります。

最近では、「そもそもどうしてそういう創作がなされたのか」という点に目を向ける研究も増えてきましたが、いずれの場合にも史実と創作はハッキリさせる必要があります。

そのため、性格が悪い奴ほど歴史学に適性がある、という言われ方もされたりします。

しかし、ライトな層に向けた歴史系の案件では「史実よりも面白さ」を求められるのが現実です。

事実、ネット上の記事をみていると、当然のように史料も参考文献も記載されていない「出所不明」の情報があふれています。

そのため、時としてそういう仕事を求められることもある、というのが史学専攻の人間にはそもそも耐え難いのではないかと思います。

ただし、よほど生活に困っていないのであれば「そういう仕事を断ってしまえばいい」というのも事実です。

会社員であればこれは出来ませんが、我々フリーランスにはこの選択肢が与えられています。

フリーランスの大きな特権の一つなので、使えるところでは全力で使った方がいいでしょう。

これは自分自身のプライドを守る意味もありますが、自分の監修したものに「出所不明」の情報を掲載して公開することは、自分の名前に傷をつけることにもつながりかねません。

したがって、思い切って断るのも選択肢の一つです。

4.「好き」を仕事にできると楽しい!

今回は、歴史と仕事についての記事を書いてきました。

歴史好きなら一度は思い当たるこの問題だと思いますが、ぜひこの記事を参考に自分なりの解決方法を見つけていただければと思います。