坂本龍馬が教科書から消える理由は何なのか?歴史の教科書や史実の龍馬像を検証

夜明け 船 歴史
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「坂本龍馬」の名前に心当たりがないという方は、恐らくいないのではないでしょうか。

それほどまでに有名で、「国民的人物」と呼んでも差し支えのない幕末の志士です。

そして、名前だけでなく龍馬の歩んだ生涯やプロフィールに至るまで、他の歴史上の人物の追随を許さないほどの知名度を誇ります。

しかしながら、龍馬の歴史的評価はそうした知名度ほど高くはありません。

実際、2017年11月14日に朝日新聞などの各紙で報道されたところによると、「高大連携歴史教育機関」が歴史用語の内容を再検討した際、「『坂本龍馬』という用語は教科書から削除するべき」という意見が提出されました。

歴史好きからすると驚くべきニュースにも感じるかもしれませんが、この意見が提出されるまでには様々な背景や歴史学の事情が複雑に影響しています。

そこで、この記事ではまず坂本龍馬が国民的人気を得た理由を考察したのちに、教科書から「坂本龍馬」という人名を削除するという提案に至った理由を解説していきます。

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1.「坂本龍馬」イメージの形成と人気拡大の歴史

坂本龍馬 写真 肖像画像出典:コトバンク

さて、ここではまず前提として「どうして坂本龍馬が人気になったのか」という点について考察していきます。

龍馬人気が現在のように国民的なものになるまでには、いくつかの過程がありました。

1.維新直後の龍馬は誰もが知る人物ではなかった

現代では、坂本龍馬は薩長同盟を成立させるに至った人物として、明治維新に最も大きな貢献を果たしたという見方がなされることもあります。

しかしながら、維新直後はそれほど著名な人物ではありませんでした。

もちろん完全に無名だったわけではありませんが、少なくとも現代のように誰もが知っている人物ではなかったことが推測できます。

維新の立役者といえば薩長土肥の四藩が挙げられますが、龍馬は暗殺されてしまっていたために明治政府に入閣することは当然できませんでした。

そのため、一時的に知名度を下げる結果になったことと推測できます。

さらに、維新の動揺が落ち着き始めると薩長出身の人物たちが中心的な存在となっていき、その他の藩はしだいに政治の中枢から遠ざけられていきました。

その影響で龍馬が生まれ維新にも大きな役割を果たした土佐藩の藩士でさえも次第に冷遇されていくようになります。

そういった状況の中で、にわかに龍馬への注目が集まっていくようになります。

2.最初の転機は小説『汗血千里駒』の流行

汗血千里駒 表紙画像出典:国文学研究資料館

龍馬が創作で取り上げられるようになったのは、明治15年(1882)ごろです。

この時期は前年に明治14年の政変が勃発するなど、藩閥政治ではなく立憲政治を求める声がしだいに高まり始めていました。

その時流に呼応する形で描かれたのが、坂崎紫瀾の小説『汗血千里駒』でした。

この小説は「天下無双人傑」シリーズの第一伝として描かれ、龍馬を主人公として描いた最初の小説としても知られています。

自由民権派の新聞に連載されていたこともあり、龍馬は自由民権運動が目指すべき理想の精神をもっていた人物として描かれています。

この小説がヒットしたことで、一躍龍馬の名前は世間の知るところとなりました。

ただ、小説の内容はあくまで自由民権主義の啓蒙に過ぎず、現在の龍馬イメージとは異なる描かれ方がなされている点にも注目する必要があります。

つまり、龍馬の存在はあくまで政治的な道具であり、明治維新が目指した「あるべき姿」と「現代」がかけ離れていることの象徴として持ち出されたのです。

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3.明治皇后の夢枕に出現したと報じられ、再び注目を浴びる

結局自由民権運動は実を結び、国会の開設が約束されたことで運動は収束していきました。

そのため、政治的に必要性を失った龍馬という存在はブームではなくなり、しばらくの間注目を浴びることはありませんでした。

しかし、日露戦争開戦を目前に控えた1901年2月、日露開戦を憂う当時の皇后美子の夢枕に坂本龍馬が出現したと報じられます。

夢の内容は、白衣の人物が「日本の海軍軍人を守護する」と語り、土佐勤王党出身の田中光顕が龍馬の写真を見せたところ、皇后が夢に出てきた人物との一致を認めたというものでした。

新聞ではこのエピソードをもとに、龍馬が「日本海軍の祖」であると報じられていたことから、海軍の権威付けに利用されていたと考えることができます。

とはいえ、この一件をきっかけに龍馬人気は再燃し、戦前にも龍馬を題材にした多数の創作が確認できます。

4.司馬遼太郎の『竜馬がゆく』で現代のイメージが確立

司馬遼太郎 仕事風景
画像出典:https://mainichi.jp/premier/business/articles/20170201/biz/00m/010/009000c

戦後になっても龍馬人気は引き続き持続していましたが、それを決定的なものにしたのが司馬遼太郎の描いた小説『竜馬がゆく』です。

歴史小説としては異例の大ヒットを果たした本作は、龍馬のイメージを完全に確立させることになります。

小説で描かれている龍馬の姿は、先進的で独創的な「維新史の奇跡」とも形容できるほどに英雄色が強い人物でした。

私も『竜馬がゆく』は全巻読了しましたが、「小説」としての完成度が抜群に高く、素晴らしい作品に仕上がっています。

しかし、一方で小説の出来が素晴らしいあまりに、司馬遼太郎の描く「坂本龍馬」を史実と誤認してしまう読者が続出したのも事実です。

本来小説はあくまで虚構の創作であるものですが、本作はその域を飛び越えてしまったといえるでしょう。

そのために、明治維新の成立に坂本龍馬は欠かせなかった、というイメージが確立されたのです。

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