現代ではその名を知らぬ人はいないほど人気のスポーツとなった野球。
しかし、皆さんは「野球の歴史」を尋ねられた時、日本で野球がいつからプレイされているかを答えることができますか?
恐らく、正答率は決して高くないのではないかと思われます。
とはいえ、答えられなかったからといって落ち込む必要はありません!
分からないことは学べばいいですし、なにより我々が野球の歴史を学べる施設は野球ファンのかなり身近に存在するからです。
そこで、今回は東京ドーム内に位置し、野球を専門に扱っている博物館「野球殿堂博物館」の見どころをご紹介していきたいと思います。
1.野球殿堂と野球殿堂博物館の歴史
さて、皆さんはそもそも「野球殿堂」という仕組みをご存知でしょうか。
野球に関心のある方は「本年の殿堂入りは○○氏に決定!」なんていうニュースをご覧になったことがある方もいらっしゃるかもしれません。
そう、野球殿堂とは、日本の野球界に多大な貢献を果たした人物を表彰する制度として、1959年に創設されたものなのです。
元ネタとなるシステムはすでにアメリカで導入されており、日本はそれを見習った形になりますね。
対象は「野球の競技的発展に尽くした」競技者表彰と、「野球の制度的発展に尽くした」特別表彰の二種類があり、前者は我々がよく知る選手や監督が、後者は我々にはあまりなじみのない審判や野球連盟の会長などが多く受賞しています。
そして、野球殿堂制度が創設されるにあたって同時に創設されたのがこの野球殿堂博物館なのです。
ただし、創設当時は施設名称を「野球体育博物館」といい、また現在のように東京ドームへ隣接される形をしていたわけではなく、東京ドームの前身となる後楽園球場脇に存在していました。
やがて、後楽園球場が改修され東京ドームへと姿を変えるタイミングで現在の位置に収まり、2013年には名称を「野球殿堂博物館」へと改めたのです。
創設から半世紀以上の歳月が経過しましたが、日本有数の野球専門博物館としての価値が衰えることはありません。
客層も多岐に渡り、ドームでの試合を前にちょっとした時間つぶしで訪れる家族連れから、私のように研究論文執筆の史料を収集しにくる学術的な人たちまでを満足させる施設になっています。
2.野球殿堂博物館の見どころ・展示案内
ここまで、野球殿堂という制度と博物館の歴史をご紹介してきました。
それらを踏まえた上で、以下では博物館内の展示や見どころを専門的な視点から解説していきます。
1.日本だけでなく海外を含めた野球の歴史を学べる
まず、博物館を名乗るだけあって日本および海外における野球の歴史を学ぶことのできる展示が揃っています。
もちろん、先ほど冒頭で出した「日本で野球が行なわれるようになったのはいつか」というクイズの答えから、現代の12球団で選手たちが身に着けているユニフォームなどの装飾品まで、日本の野球史をすべて網羅しています。
展示の魅力を語るには分量が多すぎるのですべてをご紹介することは出来ませんが、野球史研究家として注目してほしいポイントは「戦前に用いられていた野球道具」でしょうか。
野球の記録を見るのが好きな方は、戦前期の野手たちがやけに大量のエラーをしていることを知っているかもしれません。
彼らがそれほどエラーをした理由は「今より野球が下手だから」というだけではなく、使用しているグローブが非常に粗悪品であったことが理由に挙げられます。
その証拠ともいえるグラブの画像がこちらです。
見ていただけると分かりますが、言われるまでただのナベ掴みにしか見えないかもしれませんね。
そう、こんなグローブで守っていたのではエラーしてしまっても仕方のないことでしょう。
…というように、例え知識として知っていることでも「実物を見る」ことによって抱く感想というものがあります。
野球好きな方であればそういう楽しみかたができる施設なので、見ているだけで楽しめると思いますよ!
ちなみに、明治時代には「剣道の面に似たキャッチャーマスクを使っていた」という証拠もあったりするので、是非ご自分の目で確かめてみてください。
2.映像や体験型展示など、子どもから大人まで楽しめる!
上記のような「野球の歴史を学ぶ」というのは個人的にすごく楽しいことだと思いますが、人によっては「そんな退屈なことやってられないよ!」と思われるかもしれません。
そんな方も安心してください。
この施設は「博物館」という仰々しい名前をしている一方で、大型スクリーンによる映像の公開やバッターボックス体験展示、さらには野球道具のトリビアなどが知れる「体験型施設」という側面も有しているのです。
特に、バッターボックス体験コーナーでは打席に立ち、実際と同じ距離から球を投げてくる実在のプロ投手との疑似対戦を映像で楽しめます。
博物館の展示が退屈だ、あるいは家族連れでお子様を楽しませたいという方は、こうした体験施設を利用されてみるとよいでしょう。
3.企画展や野球関係者の講演会なども行なわれる
ここまで紹介してきた内容は「常設展」に関するものがほとんどでしたが、それ以外にも季節やタイミングによって様々なイベントが実施されています。
例えば、通常の博物館で一般的に行われている「企画展」も、もちろん取り入れられています。
現在は高校野球のシーズンということで、「平成の高校野球」という企画展が実施中でした。
展示としては平成期に甲子園を制した各高校の実績やユニフォームなどが公開されており、その中でもとくに名勝負として知られているものは個別に言及されています。
また、展示室内では歴代甲子園における決勝中継の模様が放映されており、私としてもどこか懐かしい気分でかつての名勝負を観戦してしまいました。
こうした企画展のほかには、定期的に野球関係者を招いた講演会や表彰が実施されているようです。
こちらに関してはいつ行っても見られるという類のものではないので、公式サイトよりお知らせや申し込み方法をよく確認されるとよいでしょう。
4.図書室は野球研究にうってつけ
ここからは少し専門的な話になってしまいますが、博物館内にある図書室は野球に関する研究をする上で必ず訪れておきたい施設です。
まず、当然ながら野球関係の図書資料は非常に充実しており、体感としては国会図書館に次ぐ充実度だと思います。
実際に閲覧することができる貴重な資料は、
・戦前から現代までの野球雑誌バックナンバー
・公式に出されているリーグ史や大会史といった公式資料
・野球関係の新聞記事
あたりでしょうか。
こうした資料は研究を進めていく上で欠かすことが出来ないので、一か所で情報収集できるのは大変効率が良いでしょう。
ちなみに、蔵書に関してはこちらのページで調べることが可能です。さらに、資料室ではレファレンスサービスも提供されており、野球関係の情報で得たいものがあれば大半の答えは返ってくると思います。
私も「日本の野球史」について卒業論文で扱っていることもあり自信はありますが、担当者の方は非常に豊富な知識をお持ちでした。
実際、私は「東京六大学野球の戦前期における入場者統計」を探していたのですが、「戦前は入場者数の統計をとっていないので、そもそもそんなものはない」ということを教えていただきました。
私の他にも研究目的で来ている方が数名いらっしゃったので、研究を志す方はぜひ一度訪問してみてください。ただ、残念ながら「研究目的の施設利用」に関しては「野球殿堂博物館」内の施設であることからいくつかの弱点が存在します。
まず一つは、図書室に用意されている座席数が少ないため、ドームで巨人主催試合が開催される場合には混雑が予想されることです。
実際、私が訪問した日はちょうどドームにおける巨人戦主催日だったので、かなり資料室が混雑していました。せっかく資料を見つけても閲覧できなくては意味がないので、研究目的の方は巨人戦主催日を外していくとよいでしょう。
ただ、どうしても主催日と被ってしまう場合も閲覧室の予約は出来るので、騒がしくても構わなければ電話予約をオススメします。
そして、もう一つの弱点は研究目的であっても毎回入館料を要してしまうことです。図書室は博物館内の施設という扱いなので、毎回施設入館と同じ費用がかかってしまいます。大人600円と決して高いわけではない金額設定ですが、研究目的だと何度も足しげく通う必要がありますので、塵も積もると意外に痛いです(実体験)。
とはいえ入館料免除のシステムがあるわけでもない以上、これは致し方のない出費になってしまうでしょう。個人的には別途資料室利用のみの入場料設定があると助かるのですが、施設の構造上それは難しいでしょうね…。
3.まとめ
ここまで、野球殿堂博物館の見どころや展示について解説してきました。
最後のほうはやや専門的な話になってしまいましたが、現状では数が少ない野球研究を志す方のお役に立てれば幸いです。
もちろんそんなことには一ミリの関心もないという方でも楽しめる施設になっているので、東京ドームでの野球観戦のお供にいかがでしょうか!
アクセス:JR中央線・総武線 水道橋駅西口 徒歩5分
開館時間:10:00~18:00(シーズンオフは17:00)
観覧料:600円
コメント