3.国民栄誉賞の問題点
さて、ここまで国民栄誉賞の歴史と基本情報を整理してきました。
ここまでの内容でもピンとくる方はいらっしゃるかもしれませんが、残念ながら国民栄誉賞には様々な問題点が指摘されているという事実があります。
そこで、ここからは現行の国民栄誉賞という制度の問題点を整理していきたいと思います。
1.選出基準や方法があいまい
これは先ほども指摘しましたが、選出基準や方法は全く明かされておらず、また受賞者の顔ぶれを見てもそれが分かりづらいという側面があります。
実際、個人的には「えっ、この人がいなくてこの人が入るの?」と言いたくなってしまうような選出も少なくなく、この基準には疑問を呈したいところです。
これらの点に関しては、賞の公平性を保つためにもそれぞれの分野で有識者を募って投票制にするなどの措置が必要にも思えます。
ただし、要項で「表彰者は内閣総理大臣」と定められているため、実際のところは少なからず時の首相の意向が入っていると考えるのが自然です。
例えば、現在であれば反体制派を公言しているものの、優れた功績を残しているという人物にこの賞が与えられるとは考えにくいでしょう。
こうした点から、後述するように賞の政治利用が指摘されることもあります。
2.スポーツ選手の受賞が抜けて多い
これも指摘済みですが、受賞者の一覧に対してスポーツ選手の割合が飛びぬけて多いという事実もあります。
そもそも、個人的には文化人とスポーツ選手を同列に評価すること自体が間違いなような気もしますが、近年は特にスポーツ選手の受賞が多いです。
実際、賞の創設課程がスポーツ選手由来であること、文化人にはほかにも様々な表彰が用意されていることは事実です。
ただ、表彰の目的で受賞者をスポーツ選手に限定していない以上は、やはり公平な視点で評価するべきだと考えられます。
また、こうした点も後々指摘する政治利用の問題と絡めて指摘されがちです。
3.死後に受賞する人物が多く、遺族から苦言も
受賞者リストに死亡年月が多く記載されているように、死後に受賞することになる人物も多いという問題点が指摘できます。
個人的には賞は生前に受賞するべきだと考えていますし、実際にノーベル賞などは死後の受賞を認めていません。
ただ、死後に評価されるということも全くないわけではないのでノーベル賞ほど厳密にする必要があるとは思えませんが、できるだけ生前に賞を与えるべきでしょう。
実際、死後受賞を提案されて辞退した遺族からは「生前でなければ意味がない」という指摘もなされており、この点はよく考えなければなりません。
4.政治利用が容易になされる環境にある
ここまで何度も指摘してきたように、国民栄誉賞は内閣総理大臣にほぼ全権が一任されています。
それゆえに、官邸の意向一つで簡単に政治利用ができてしまうという脆弱性を抱えた制度になってしまっているのが現状です。
そのため、この点に関しては特に左派からの反発が根強く、現政権が国民栄誉賞を与えるたびにそうした指摘が週刊誌を賑わせます。
ただ、個人的に考えるべきは「現政権が制度を政治利用しているか否か」ということではなく、「政治利用しようと思えば容易にそれが叶う」というシステム側の問題だと考えています。
政治的な話については専門外なので読者の皆様の判断にお任せしますが、このシステムは今後の政権によっては悪用の危険性をはらんでいます。
極端な話ですが、ヒトラーやスターリンのような独裁者このシステムを利用すれば自分に忠実な人物たちのみを表彰するということも現状では可能なのです。
こうした現状には問題があると言わざるを得ません。
4.国民栄誉賞の改革案
さて、ここまで国民栄誉賞の問題点をいくつか指摘してきました。
ただ、現状でも国民栄誉賞は賞として認知度が高く、かなりの権威も担保されていると感じるのでいくつかの点を改革すればより公平性のある賞になるのではないかと感じています。
そこで、最後に個人的な国民栄誉賞の改革案を提示して記事を締めたいと思います。
筆者としては、次の3点を制度に反映させることを提案します。
- 一定の期間ごとに対象者をリスト化し選出
- 有識者を可視化し、投票によるパーセンテージを基準に受賞の可否を判断
- 賞そのものを分野別に細分化
まず、1つ目の根拠はある一定の期間に優れた功績を残した人物を有識者によってリスト化し、そこから人選をするというものです。
期間は5年程度をスパンとして開けることで、賞の目的にも合致した人物を選出できるように思えます。
次に、2つ目の根拠は選出の不透明さを解消するために、有識者を可視化し一定の票数が集まった人物を選出するというものです。
これはアメリカ野球殿堂や芥川賞から着想を得たものですが、こうすることで官邸に政治利用の疑いがかかることもなくなるのではないかと思います。
最後に、3つ目の根拠はそもそも分野が混在していることが基準の不一致や分野の偏りを生んでいると考えるので、そこを細分化させるというものです。
例えば、「国民栄誉賞スポーツ部門」や「国民栄誉賞芸術部門」のように分野を細分化すれば、選考もしやすくなり分野の偏りを防げるのではないでしょうか。
- 内閣府「国民栄誉賞について」https://www.cao.go.jp/others/jinji/kokumineiyosho/
- 内閣府「国民栄誉賞受賞一覧」https://www.cao.go.jp/others/jinji/kokumineiyosho/kokumineiyosho_ichiran.pdf
- コトバンク「国民栄誉賞」https://kotobank.jp/word/%E5%9B%BD%E6%B0%91%E6%A0%84%E8%AA%89%E8%B3%9E-171552