東京オリンピックの中止・延期・ボイコットはあり得るか?五輪過去大会の実施状況を歴史的視点から考察

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コロナウイルスの流行により、にわかに囁かれるようになってきた「東京オリンピック中止説」

私も「いやいや、まさかあり得ないだろう」と当初は思っていましたが、もはや日本だけにとどまらず世界的流行の兆候を見せるようになり、真剣に考えなければいけない時期に来ていると思います。

そこで、今回の記事では「東京オリンピックの中止や延期はあり得るか?」というテーマを、過去のオリンピック開催状況に触れつつ考えていきます。

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1.東京オリンピックをめぐる主催者や政府側の発言状況

東京オリンピックの中止説をめぐって過去の歴史を分析する前に、現状でIOC(国際オリンピック委員会)や政府がどのような声明を出しているかを整理する必要があります。

順を追って見ていきましょう。

1.IOCは「開催」という方向に全く変わりはないと主張も…

まず、「陸上競技の北海道開催(今考えれば、なんとも可愛らしい議論でした…)」が問題になった際、非常に強い力を有していることがハッキリしたIOCの主張から。

にわかに「オリンピック中止説」が騒がれるようになり、IOCのバッハ会長は緊急の声明を出しました。

NHKニュースで取り上げられている彼の声明を引用してご紹介します。

「大会成功に向けてとても自信を深めた。建設的な協力に感謝している。IOCは今後も特別作業チームを通じてあらゆる想定に対処できるようにする」

「自信を持って東京大会に向けて準備を続けてほしい。懸念に応える最新の情報を提供するなどして選手たちを支えていく」

彼の口ぶりからは「あくまで開催するという結論に変わりはなく、具体的に中止などの話も出ていない」ということが読み取れます。

そもそも緊急でこのような談話が出てくること自体「全世界的にオリンピックの中止があり得るという認識が広がった」というIOC側の強い危機感を象徴してはいるのでしょうが、少なくとも「開催」について断固たる決意をもっていることは確かです。

一方、IOCのディック・パウンド委員がBBCラジオで「東京開催の是非の判断期限は5月下旬」と語ったというニュースが話題になっています。

これに対し大会組織委員会の武藤敏郎事務総長は「IOCに問い合わせた結果、IOCの考え方とは違うとの回答を得た」と説明し、IOCもそれに同調したと報道されました。

しかしながら、現実の問題としてパンデミックの危険性が指摘されている昨今、IOC側が何一つとして中止や延期の可能性を考慮に入れていないとすれば、逆にそれは大会責任者としての資質を問われても仕方ないでしょう。

実際、オリンピックの代表選手選抜大会や他のスポーツイベントが中止・延期に追い込まれていることからも、可能性の一つとしては検討する必要があるのも明らか。

あくまで推測ですが、IOC内部では「開催を前提」とする一方、中止や延期に関する議論が行われていると考えたほうがいいのかもしれません。

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2.政府の中でも開催の路線に変化はないが…

IOCが開催に向けて確固たる決意を表明した一方、ホスト国である日本政府はどのように考えているのでしょうか。

菅官房長官は、記者会見の際にこう発言しています(ソースは先ほど同様にNHKニュース

「バッハ会長も東京大会が成功するよう全力を注ぐと発言していると承知している。政府としても引き続き、予定どおりの大会開催に向けてIOCや組織委員会、東京都との間で緊密に連携をとりながら準備を着実に進めたい」

やはり、基本的にはIOCと同調して「開催」を前提に準備を進めるという考えに変化は見られません。

しかしながら、政府の中でも「オリンピック」を専門に取り扱う橋本聖子五輪相の発言は、IOCや内閣府と少し毛色が異なります。BBCニュースよりご紹介しましょう。

この日の参議院予算委員会で橋本五輪相は、国際オリンピック委員会(IOC)と東京都との契約では、「大会は2020年内に開催されるべき」と示されていると説明。「20年中であれば延期できると取れる」と付け加えた。

東京五輪は7月24日から8月9日に予定されている。橋本氏は、「計画通り大会が開催されるよう全力を尽くす」と話した。

五輪相の発言をよく見ていくと「延期の可否」について言及していることが読み取れます。

もちろん、表面的に発言を考えれば「延期ができるという解釈に至った」というだけ過ぎません。しかしながら、そもそも「延期ができるかどうか」ということが頭をよぎる時点で「万に一つ」くらいは延期の可能性を念頭に置いていると考えるのが自然です。

ここについては、「五輪相としてすべての可能性を模索しているだけだ」という解釈も可能ですし、言うまでもなく延期が現実的な選択肢に入っているのかどうかさえ分かりません。

ただ、五輪相の発言がBBCニュースで報じられていることからも分かるように、海外での注目度が日増しに高まっているのは確か。

もちろん、「中止、あるんじゃね?」という関心の高まりであることは火を見るよりも明らかです。

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2.過去に中止・延期・ボイコット発生となったオリンピック

主催者側の発言が整理できたところで、ここからは過去のオリンピック開催状況を見ていきましょう。

1.中止・延期になったオリンピックはすべて戦局の悪化が原因

過去のオリンピックにおける中止や延期を見てみると、その原因はすべてが「戦局の悪化」であると分かります。

具体的には、

・1916年ベルリン五輪(第一次世界大戦長期化により中止)

・1940年東京・ヘルシンキ五輪(東京は第二次世界大戦勃発により中止、ヘルシンキは事実上の延期)

・同年札幌・サンモリッツ・ガルミッシュ=パルテンキルヒェン冬季五輪(同上の理由で中止、サンモリッツは事実上の延期)

・1944年ロンドン五輪(第二次世界大戦長期化により延期)

・同年コルチナ・ダンペッツオ冬季五輪(同上の理由で事実上の延期)

となります。

この中で「延期にならず中止と決まったオリンピック」は、ベルリン・東京・札幌・ガルミッシュ=パルテンキルヒェン。共通点は、どちらも大戦中に敗戦国となったドイツ(40年はナチス・ドイツ)と大日本帝国であることでしょう。

その意味でいえばイタリアのコルチナ・ダンペッツオも枢軸国にはなるのでしょうが、なぜか延期開催されています(44年にはすでにファシスト党が倒れていたからでしょうか)

いずれにしても、単純に過去の歴史を踏まえれば「中止になることは戦争以外ではあり得ないし、なったとしても延期開催してもらえる」ということが言えます。

2.大会ボイコットは政治的な対立が原因

中止や延期の歴史がわかったところで、いわゆる「正常に開催されなかったオリンピック」を見てみましょう。

皆さんも少しは聞き覚えがあるかもしれませんが、過去の五輪では「ボイコット」によって正常に開催されなかった回が少なからず存在します。

私が確認する限りでは

・1956年メルボルン五輪(政治的反発によって7カ国がボイコット)

・1976年モントリオール五輪~1984年ロス五輪(政治的反発によってボイコットが連発。とくに1980年モスクワ五輪では反共を掲げた50カ国近く、1984年ロス五輪では前回の反発で東側諸国がボイコット)

の期間にボイコットが連発しました。
しかしながら、基本的に政治的な問題からボイコットは行われており、感染症がらみのボイコットは確認できませんでした。
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3.スペイン風邪の流行時にもオリンピックは開催された

ここまで、スポーツ歴史学的な視点から「東京オリンピックの中止説」を考えてみました。

記事内の証明をそのまま用いれば、「感染症によってオリンピックが中止されることはない」と言えてしまいます。

実際、過去世界中を巻き込んだ「大規模な感染症」の発生時にオリンピックが開催されてきたのも確か。

近代オリンピックが開幕してから最大の感染症といえば、1918年より世界中を震撼させた「スペイン風邪」の存在が挙げられます。

内閣官房のサイトによれば、

当時の世界人口18億~20億人の1/3以上が感染し、数千万人(概ね2千万人~5千万人といわれます)が死亡し、その致死率(発病者数に対する死亡者数の割合)は2.5%以上と推計されています

と、現代のコロナウイルスが可愛く見えるほどの猛威を振るいました。

しかしながら、1920年(まだスペイン風邪流行の後半期にあたると考えられている時期)にベルギーのアントワープで五輪が開催されています。

これを単純に考えれば、やはりオリンピックは開催されるという結論が出てきてしまいます…

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3.今回のオリンピックについては「歴史に学ばない」ほうがよい

オリンピックの歴史を考えていくと、「感染症の流行は中止・延期・ボイコットの理由に当たらない」と結論づけられてしまいます。

しかしながら、当然今回の場合にこの知識をそのまま使って「大会は何事もなく開催されるだろうし、最悪の場合も延期だろう」と考えるのは早計でしょう。

なぜなら、過去の例とは

・世界におけるウイルスの移動状況

・感染症予防意識の向上

・オリンピック大会の経済的な効果

という点で全く異なるから。むしろ、「中止や延期の可能性はゼロではない」と考えるべきです。加えて、強行開催に踏み切れば「ボイコット」もあり得るでしょう。

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という格言はありますが、今回の場合は「歴史に学ぶヤツも愚者」となってしまいます(史学科卒の人間としては、この格言自体にも異議を唱えたいところですが…)

話を戻しまして、最後に「過去とは異なるポイント」を一つ一つ具体的に見ていきましょう。

1.1920年とは比較にならないほどウイルスは世界を移動する

1920年という時代は、第一次大戦の終結直後です。

「世界大戦」が起こるということは、すでにこの時代から世界中を人やモノが行き来していたことを意味します。当然ながら、スペイン風邪の病原菌も世界を移動したことでしょう。

しかしながら、それでも現代に比べるとウイルスの移動はカワイイものです。なぜなら、まだまだ飛行機の性能が低かったから。厳密には大戦終結直後から旅客機による乗客輸送は始まっていたようですが、まだまだ一般化するには程遠かった。

かの有名なチャールズ・リンドバーグが大西洋無着陸飛行を達成したのが1927年であることからも、当時の飛行機性能は察せるものです。

一方、時は流れて現代はどうでしょう。

世界中で旅客機による乗客輸送は当たり前になっており、毎日無数のヒトが空を飛び回っています。この状況において、ウイルスの移動が促進されているのは誰の目にも明らか。実際、今回のコロナウイルスも時代が異なればこれほど流行はしなかったかもしれません。

ウイルスの移動量を考慮すれば、1920年と今回は全く異なる状況にあるといえます。

2.感染症予防の意識が飛躍的に向上した

スペイン風邪の大流行は、人々に「感染症」に対する恐怖心を植え付け、そこから数多くの感染症対策が実施されるようになりました。

結果、当時と比べれば大幅に「感染症予防の意識」は高まっており、この点も1920年とは全く異なります。

そして、感染症に対抗しようとする研究も発展しており、当時は分からなかった「感染症対策の方法」が一般人レベルにも知られるまでになりました。

各種スポーツ大会が中止や延期を余儀なくされているのも、結局は「大人数が集まると、コロナウイルス感染のリスクが高まる」ことが周知され、その対策を講じた結果です。

感染症の知識や対策の意識が足りていなかった当時と同列に中止の可能性を語るのは間違いである、というのは確かでしょう。

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3.オリンピックの商業化により、延期も困難になっている

オリンピックの歴史を見ていくと、戦争が理由でいったん中止となった大会も延期の措置を講じて開催している例がありました。

「もしパンデミックが起きて今回ダメでも、延期という決定になるのでは?」

そう言いたくなる気持ちも分かりますし、実際に万が一中止が決定された場合も延期になるのではないかと私も思っています。

しかしながら、少なくとも比較的気軽に延期できた戦前のオリンピックと今回とでは、延期の難易度は大きく変化しています。

それはなぜか。

答えは、1984年以降にハッキリしてきた「オリンピックの商業化」から導き出すことができるでしょう。この大会ではオリンピックの「広告宣伝効果」が脚光を浴び、大会のあり方を決定的に変えたことで知られています。

今回の東京オリンピックに際しても、政府や企業が「投資対象」として大会を考えているのは明らかで、国を挙げて推し進めてきました。

が、その商業化に際して、アメリカでの「放映権料」が莫大なものになっていることをご存じでしょうか。大会での収益を見込んで、アメリカの放送局は莫大な費用をIOCに支払っています。

これは単純に五輪の商業的価値に注目していることもありますが、一番の原因は「オリンピックが開催される夏に、アメリカで大きなスポーツイベントがない」というのが理由であると報じられています。

日本がわざわざ猛暑での大会開催を余儀なくされ、結果的に陸上競技を北海道に移さざるを得なかった事情もこのあたりが原因でしょう。

そのため、橋本五輪相の言う「オリンピックの年内延期」は非常に難しいのも事実なのです。

実際、先ほども発言を引用したディック・パウンド氏は「(年内延期は)巨額の放映権料を支払う北米のテレビ局が納得しないだろう」と否定的。

その上で彼は1年の延期を提案していますが、橋本五輪相の発言を踏まえると「年内を越えると延期ができない」とも読み取れます。

以上の事情から、延期についても一筋縄ではいかないのです。

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