2019年7月18日。
これまで数々の傑作を生みだしてきたアニメ制作会社「京都アニメーション」の第一スタジオが、青葉真司容疑者の手によって放火されるという事件が発生しました。
事件については様々な憶測やデマが流れており、まずこの記事では事件の正確な情報をまとめています。
その後、普段アニメを見ていない方にはなかなか認識ができないであろう、「事件によって失われた文化という側面」から、この出来事がもたらした衝撃を記述していきます。
このタイミングでの記事作成に迷いはありましたが、ライターを名乗っている以上「私にできることは正確で信頼できる情報を入手し、解説したうえでそれを発信する」ことなのではないかと思い、記事を作成しました。
1.事件の全容・被害状況(2019年7月22日時点)
ここでは、事件の発生や被害状況などを現状分かる範囲で説明しています。
情報源についてはページ下部に注という形ですべて明記してありますので、ソースを知りたい方はそちらをお読みいただけますと幸いです。
1.犯行の経緯
まず、事件の発端は出来事が発生する数日前にさかのぼります。
事件発生の数日前、目撃者の証言によれば「青葉容疑者に似ている男をコンビニで目撃した」という事実が明かされました。[1]https://www.sankei.com/west/news/190722/wst1907220019-n1.html
この証言が事実であれば、男は前もって京都に乗り込み、犯行に向けて入念な準備をしていたことがわかります。
さらに、数日前にはガソリンの携行缶を持ち歩いている姿も目撃されており、強い殺意を抱いていたのでしょう。[2]https://news.livedoor.com/article/detail/16811333/
そして事件当日。
容疑者は現場付近でガソリンを40L購入し、それを現場の第一スタジオまで持ち運んでいたようです。[3]https://www.at-s.com/news/article/social/shizuoka/659532.html
事件発生は午前10時過ぎで、犯人は液体を撒いたうえで火をつけ100メートル以上逃走。[4]https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1907/19/news049.html
ガソリンに引火した火は瞬く間に燃え上がり、74名の従業員たちは逃げ延びることもままならないまま炎に飲み込まれていったようです。[5]https://www.asahi.com/articles/ASM7L5GDYM7LPLZB01P.html
犯人は100メートルほど逃走したところで確保されましたが、犯人自身も大やけど負っていたため即座に入院措置が施されました。
なお、現状ではすでに逮捕状が請求されています。
最終的に死者数は34人(22日時点)[6]https://dot.asahi.com/wa/2019072000004.html?page=1で、負傷者は30名以上と報道されています。[7]https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1907/18/news087.html
2.スタジオも被災によって製作資料が失われる
スタジオの被害状況については、19日に会見を開いた社長の口から
「一切合切ダメ」
「コンピューターも全部ダメ」
「被害金額?甚大です。詳しくは分からない」
と語られており、事件直後の混乱の最中とはいえ現状は絶望的であることが明かされました。[8]https://news.livedoor.com/article/detail/16798060/
なお、今回被災した場所は「第一スタジオ」であり、京都アニメーションの
・本社
・第2スタジオ
・その他関連施設
は無事であることが確認されています。
3.「小説が盗まれた」という動機は事実ではないと思われる
報道初期の段階において、犯人の供述として
「小説を盗まれたから放火した」
という動機を語ったことが報道され、[9]https://www.asahi.com/articles/ASM7M3ST7M7MPTIL003.html京都アニメーション側にも容疑者との関わりがあったことが示唆されました。
しかし、その後の報道によって「小説の盗用」はおろか、同社が発行する小説レーベルに対する応募の事実や、容疑者との過去におけるトラブルは一切ないという主張が会社側から公表されました。[10]https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1907/22/news055.html
そのため、一方的に容疑者が恨みを募らせた可能性が指摘されていますが、現状ではそれ以上のことが明らかにはされていません。
4.第一スタジオにおける消防法上の欠陥はなし
SNSや噂のレベルでは「第一スタジオの構造的欠陥」が指摘されることもありますが、報道によれば火災報知機や警報機が消防法に基づいて設置されており、法的に建物の存在は認められているものでした。
そのため、火災発生に関して法的な構造の問題はなかったことが明かされています。
ただし、報道によれば「螺旋階段の存在が火の回りを早くしたのでは」という点に関しては指摘があり、[11]https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/201907190000142.html避難そのものが非常に困難なものであったのは事実のようです。
もちろんガソリンによる放火殺人は消防法の範囲で防ぐことは出来ないため、京都アニメーション側に落ち度はなかったと判断するべきでしょう。
5.まとめ
ここまで、最新の報道を総合して事件の現状をまとめてみました。
SNSや噂のレベルで様々な話が出ているようですが、ひとまず信頼できる報道機関および公式発表で分かり得る範囲はここまでとなっています。
したがって、被害者の氏名や被害状況などは明かされていませんので、その点に関して流布している情報は不正確なものである可能性をご承知おきください。
2.オタクが語る、京アニ火災事件で失われた「文化」
次に、この事件によって失われた「命」と「文化」について、いわゆるオタク的な視点から解説を加えていきたいと思います。
もちろん、単純に34名の命が失われた放火事件というだけでも近年まれにみる凶悪事件であることは明らかですが、今回の事件は「アニメスタジオ」という特殊な場所で発生した事件であることをどうしても鑑みる必要があります。
「命の価値を分ける」ということではないのですが、やはり被害についても普通の会社とは異なる状況があったことは事実で、さらにアニメ好きでなければその意味が伝わっていないような印象を抱きました。
1.第一スタジオの資料が焼失したことのもたらす意味
社長の発言からスタジオの資料がほぼ焼失したことが明かされましたが、この出来事が何を示しているか、アニメファンでない方はあまりピンと来ていないというのが印象に残りました。
私が指摘したいのは、日本のアニメ界を牽引してきた京都アニメーションの資料が失われたということは、つまり「日本におけるアニメ文化の一部が失われた」ということを示しており、これは「文化の死」と言い換えることもできるのです。
つまり、下記の記事で示しているような「法隆寺金堂壁画」や「松山城」の消失と何ら変わるところはなく、人命の次に大切なものが永久に失われてしまったことをご理解いただけるのではないかと思われます。
皆さんの中には「資料についてはバックアップもあるのでは」とお考えになるかもしれませんが、アニメの原画や設定は紙で保管されることも多く、量も膨大なため全てをバックアップすることは不可能に等しいでしょう。
このように、たとえ「社屋を立て直し、機材をそろえた」としても、二度と取り返すことのできない文化的結晶が失われたという事実を、我々はより深く見つめなおさなければならないのかもしれません。
2.「34名の死」は、「34の技術の死」を意味する
アニメに関連する仕事というのは非常に専門職的な意味合いが強く、アニメーターと呼ばれる動画制作者をはじめとして一人一人が固有のスキルをもつスペシャリスト集団という側面があります。
そのため、人材の育成には長い時間と経験を要するほか、個人のもつスキルは「センス」が問われるということもあり、替えの利かない人材が大変多い仕事ともいえるでしょう。
つまり、今回の事件で34名の関係者が亡くなったということは、人命が失われたのと同時に「34の技術が、地球上から永久に失われた」ということを示しているのです。
もちろん、人命を軽視する意図がないということは繰り返し明記しておきます。
しかし、これもまた人命の次に大切な「文化」が永久に失われたことを象徴しているのではないでしょうか。
3.生き残った方々も、言うまでもなく無傷ではない
さて、上記では「資料と34の人命・技術の死」が永久に失われたことを指摘してきました。
しかし、言うまでもなく生き残った方々が無傷であるハズはありません。
これは公式な報道ではないため憶測の域を出ないものですが、恐らく負傷された方の中には身体に大きな後遺症を患ってしまった方もいらっしゃるでしょう。
さらに、幸運にも無傷であった方、当日スタジオを離れていた方であっても、精神的なダメージは計り知れないものがあると思います。
こうした状況において、「頑張ってもう一度アニメを作ろう」という思考を抱く方が、果たしてどれほどいらっしゃるでしょうか。
昨日まで汗水を流した仲間が失われ、文化的結晶である資料が失われ、社屋が失われ、事件のトラウマに晒され続ける。
正直、仮に私の立場であれば二度とアニメに関わることはできないと思うかもしれません。
そう考えると、先ほど示したような「34」という具体的な数値で被害を語ることはできず、まさしく言葉にならないほどの後遺症を関係者すべてに植え付けたことになります。
4.せめて残された作品を全力で楽しみたい
大事件が起きた後に「京アニの作品をまた観たい」というのはいくらか不謹慎な気もしないではないですが、やはりそれを願っているファンは少なくないと思います。
もちろん私もその一人で、過去には同社の作品だけを紹介した記事を作成したこともありました。

こんな時に自分の記事を宣伝することが褒められたことでないのは承知していますが、私といういちライターにできることは「この会社がどれだけのものを我々にもたらしてきたか」を皆様に発信することではないかと思うのです。
言うまでもなく、上記で挙げたような甚大すぎる被害を乗り越えてカムバックを果たすことは簡単ではないでしょうし、しょせん部外者の私としては安易に「頑張れ」とも言いたくはありません。
だからこそ、私は彼らの功績を発信する道を選択しました。
今という時期にアニメを見ている場合ではないかもしれません。そんな気分にもなれないかもしれない。
しかし、幸運なことに「完成版のアニメ」は燃えずに残存しています。
事件のことを悲しむよりは、彼らの残していったモノを全力で楽しむ。これが最もふさわしい「祈り」なのではないかと考えます。
3.まとめと募金先のご案内
ここまで、京都アニメーションの火災に関する様々な情報をまとめ、解説してきました。
正直記事を書いていて何度立ち止まり、吐き気を催したかは数えることができません。
それでも、こうして京アニのファンを名乗り、ライターという仕事に従事している以上、情報を発信することこそが責務だと感じました。
皆さんも、自分なりに何かできることはないか、それを模索していただければと思います。
ただし、言うまでもないことですが「ありがた迷惑」にならないように、くれぐれも行動は慎重にお願いいたします。
最後に、事件に関連した募金先をリンクしておきますので、「何かできることはないか」とお考えの方はこちらに思いを託していただければと思います。

なお、リンク先は米国のアニメ会社のため詐欺の心配はないかと思いますが、不安な方は全国のアニメショップ「アニメイト」店頭に設置されている募金箱をご利用ください。
(追記:京アニ側も独自で募金窓口を開設したようなので、こちらもご参照ください。)
注
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